短歌は最高の趣味。谷じゃこさんに聞くZINEや短歌ブームのこと

短歌は最高の趣味。谷じゃこさんに聞くZINEや短歌ブームのこと

平田提

短歌作家の谷じゃこさんはフリーペーパー「バッテラ」を10年、奇数月に欠かさず発行し、ときに鯖への偏愛を短歌にし、ZINEをつくり続けています。DIY BOOKSの店内で、谷さんに自分のZINEを並べてもらいながら、短歌のはじまりからリソグラフのデータづくりの細かな話、これからやってみたいことまで、たっぷりお話を伺いました。


はじまりは2009年、夫の影響で短歌を

 

――谷じゃこさんと僕の出会いは、たぶん10年以上前ですね。「Zing!」というカルチャーマガジンを編集していたときにお声がけさせていただいて、いろんな人と会ってトークして、最後にその日のまとめを短歌にする……っていう、結構な無茶ぶりの企画をやらせていただきました。鯖専門店「SABAR」の社長さんとか、デザイナーさんとか……。
ヨガの先生とか喫茶店のオーナーさんとか。

――世の中の人には知られてはいけない、あの有名な着ぐるみの中身をやってる方とか(笑)。楽しい企画でした。谷じゃこさんが短歌を始められたのは、いつぐらいからなんですか?

2009年ぐらいからですね。当時付き合っていた人、今の夫が短歌をやっていて、それで私も始めたっていう感じです。

――それまでエッセイや小説みたいな文章を書くことはあったんですか?

いや、書いたことはなかったですね。創作っていうわけではないんですけど、大学は芸術大学でした。工業デザインの学科だったので、グラフィックではないですけど、製図とかはしていました。
短歌はネットの投稿サイトに出したり、何人かで集まって歌会をしたりしていました。でも、それをZINEにまとめるまではしていなくて。というか、そういうのがあるのも知らなかったんです。

 

最初のZINEは2013年「めためたドロップス」

――ZINEをつくりはじめたのはいつぐらいですか?

文学フリマ大阪に出るタイミングで、何人かで集まってつくったのが最初です。それが2013年の4月。『めためたドロップス』というZINEで、レトロ印刷JAMさんでつくりました。当時の東京の文学フリマで見た短歌のZINEが良くて、東京に行く知人にお願いして一冊取り寄せて「同じように作りたい」と思って制作しました。

――最初のZINEがリソグラフだったんですね。

そうなんですよ。実は、普通のCMYKでデータを作るより、リソグラフの方が先で。

――難易度の高い方から! しかもけっこう色を多めに使われている……。

そうなんです。だからZINEってめっちゃ大変、難しいなと思ってたんですけど、後から「あれは難しいやつやったんや」って気づきました(笑)。

10年つづくフリーペーパー「バッテラ」

――谷じゃこさんといえばフリーペーパー「バッテラ」をずっと出されていますよね。

いま、63号まで出ています。奇数月に1回、ずっと出していて。去年の11月で10周年だったんです。

――すごい! おめでとうございます。

10周年記念に、いつも印刷をお願いしているレトロ印刷さんのギャラリーで60枚展示するっていう企画をやらせてもらいました。

――毎回、デザインが本当に素敵だなと思うんです。ずっとご自身でデザインをされているんですか?

デザインを専門的にやってきたわけではないんですけど、最初に「めためたドロップス」をつくり始めてから、「これってどうやるんやろう」みたいな感じで、ちょっとずつできる技が増えてきた感じですね。

鯖への偏愛のはじまり

――谷じゃこさんといえば、鯖ですよね。ここまでハマられたのは、いつからなんですか?

最初は食べておいしいから、というところからなんです。コープの冷凍鯖があるんですけど、味噌煮と塩鯖があって、大学生ぐらいの時、バイトから帰ってきてご飯を食べると、割と冷凍鯖がよく出てきたんですよ。

――コープの味噌煮、めちゃくちゃ食べてました。おいしいですよね。

福井県の小浜(おばま)市に鯖街道の起点があるんですけど、そこにちょうど大学生のころに連れて行ってもらって。町に鯖のオブジェがあったりして可愛いんですよ。そこから見た目も好きになって、鯖グッズを集め出して、短歌を始めてからは「鯖の短歌のZINEをつくろう」となった、という流れですね。

▲谷じゃこさんの鯖の短歌をまとめたZINE「鯖のいる情景」と「鯖しか見えない」の2冊。装丁には鯖=38(さば)にちなんで、「38首掲載」というルールが決められている。


――装丁がいいですよね。鯖の短歌集。

「鯖のいる情景」は鯖の「38」で、38首にしようって決めてつくりました。

――すばらしい。これ、イラストもご自身ですか?

そうですね、描いてます。

――「辞書を買うならまず「鯖」を引いてみて美味と書かれた辞書がいい辞書」─これいいですね。他の魚には「美味」って書いてないのに、鯖にだけ書いてあるんですよね。

そうなんですよ、鯖と鯛には書いてある辞書があったんです。

――ある意味、辞書なのに偏ってるっていうか、思わず出てしまったみたいなのがあるんですね。いいな。「ペンギンが鯖を嫌がる映像を見ながら口を開けてるわたし」、これも好きですね。

これはちょっと前に、Xでペンギンに餌をあげると鯖を嫌がって横を向く動画がバズったときがあって。それからつくったんです。ペンギンって新鮮じゃないと食べないらしいので。

短歌は、出てこなくて困ることはない

 

――谷じゃこさんは、いつもどういう流れで短歌をつくられているんですか?

普段、日常的に出てきたものをスマホにメモしています。歌会に参加して、それをきっかけにつくることもあります。

――歌会というのは?

自分の作った短歌を持ち寄って、ああだこうだ言い合う会です。

――なるほど。それで、ある程度たまったらまとめ直す。

そうですね。それだけだとちょっと違う雰囲気の短歌も欲しいから、ZINEをつくるために書き出すっていう感じです。鯖はもう、鯖のためにつくる、ですけど。

――スランプというか、上手くいかないなっていう時はあったりしますか?

自分的には、別にずっとつくれるんですけど、それを歌会に持っていったときに「ちょっとよく分からん」と言われ続けて、「スランプなんじゃない?」って言われたことはあります(笑)。スランプの自覚はなかったな……と思いながら聞いていました。

――出てこなくて困った、ということはあまりない。

そうですね。今日はできなくても、次の日にはできたりする……という感じで、期間単位で出なかったことはないかもしれない。ただ、文学フリマに合わせて作ることが多いので、印刷屋さんへの締め切りまで、いつもギリギリなんですよ。

――ZINEあるあるですね(笑)。

「今日中に何首つくらないとヤバい、けど今日は出ない」っていうのが、たまにあって。それはちょっと困ります。

自分の中で「いい」と思える線引きを育てる

 

――歌会みたいな場でいろんな意見を聞きながら、谷じゃこさんの中で「これはいいな」「これは違うな」という線引きが育っていく感じですか?

そうですね。私の短歌はわりと、短歌界から見たら外れている方だと思うで。もちろん王道の短歌をやっている方たちも一緒にやるので、価値観が全然違う人もいて。最初は「えー、なんでそんなこと言われるの」と思うこともあったけれど、長くやっていると全然違う考え方の人の話も、「なるほど」と思えるようになってくる。

――そういう中で、自分の中の線引きが育っていく。

うまいこと出来るようになっているか、どうかは分からないけど、たぶんそうやって成長していくのかな、と思います。

――谷じゃこさんが「これいいな」と思う短歌って、どういうところに出てくるんですか?

短歌として「いい」かどうかは分からないんですけど、自分がすごいグッとくるのは「かわいい」って思える短歌がすごく好きです。

――いいですね。

ファンシーみたいな感じじゃなくて、例えばおじいちゃんがつくったような短歌でも、「なんか可愛い感じ」が滲み出ているようなものとか。

――愛嬌があるというか。

「面白い」って言ってもらえるのは、めっちゃ嬉しいです。文学フリマで立ち読みしてくれている人がパラパラっと見て、「これ面白いですね」って言ってくれると、本当に嬉しい。

リソグラフのデータづくりの話

――ちょっと急に細かい話になりますけど、デザインソフトは何を使われていますか?

Illustratorが一番多くて、最近はちょっと文章が多い時にInDesignも使うようになってきました。でもInDesignはまだあんまり分かっていないですね。

――レトロ印刷JAMさんに入稿するときは、見開きで面付けした状態でつくるんですか?

見開きの状態で作って、入稿前に半分にバラして、組み直すっていう感じです。

――リソグラフ印刷でZINEを作る人にとって、面付けはわりと共通の悩みポイントですよね。中綴じでつくる場合、ページを面付けして並べ直さないといけない。InDesignだと「小冊子印刷」で保存すれば面付けされたPDFになるし、単ページで作っておけば、最後にAcrobatで「小冊子印刷」をAdobe PDFに保存し直せば、面付け状態のPDFになるんですよ。

おお、なるほど。

――ただ、見開きでつながった図を載せたいときは、結局見開きで確認した方がいいですよね。

そうですね、つながった図がある場合は、印刷しないところを隠して両方に貼り付けたりしてます。

――なるほどなるほど。

あと2色刷りの場合の話なんですけど、例えば青と水色で作るときは、まずデータを実際の色で作って、入稿用のデータを作るときに1個ずつ黒に変えていくっていうのをしています。

――分かります。リソグラフって、グレースケールや白黒で入稿してくださいって言われるけど、画面上では実際の色で確認したいですよね。DIY BOOKSのリソグラフ(2色機)だとオート(マニュアル)分版機能があって、画面上の色をリソグラフ側がうまく解釈してくれたら対象のドラムに割り振ってくれるんですけど、色を抜いたり重ねたりする場合は、結局自分で分版しないといけなかったりするんですよね。

ややこしいですよね。

「最高の趣味」としての短歌、タイガースのZINE

――谷じゃこさんは、専業の短歌作家になろうと考えたことはあるんですか?

ないですね。最高の趣味としてやっていく感じです。

――最高の趣味、いいですね。

短歌も、飽きたらやめようと思っていて。別に飽きたら、無理にしんどいのに続ける必要はないと思っているので。幸い飽きないのでやってますけど。

――そのスタンスはすごく軽やかで、いいなって思いますね。そういえば阪神タイガースもお好きなんですよね。

はい、勝手にZINEをつくったこともあります。2023年に優勝したときに。

――すごい。あ、ちなみにそれって、鯖と同じシマシマだから、というのはあるんですか?

それはないですね(笑)。鯖由来だったら、たぶん青色のユニフォームの球団を応援していますね。

短歌ブームと、57577という入りやすさ

――短歌って何年か前にブームになりましたよね。

たぶん2020年くらいですか。そのくらいかなと思います。

――文学フリマに出ていて明らかにブースが増えたとか、変化を感じた瞬間ありましたか?

ブースは増えましたね。あと一番ありがたいのが、「短歌」って言ったときに、一発で分かってもらえる率が上がりました。

――なるほど。

10年前くらいだと「短歌」って言っても「俳句? 川柳? どっちだっけ」みたいになることが多かったんですけど、最近は「短歌」と言えば分かってもらえる。有名な作家さんの名前を知っていて「本を読んだことがある」っていう人まで急に増えたんですよ。岡野大嗣さんとか、岡本真帆さんとか。

――短歌ブームのきっかけって何だったんでしょうか。

岡本真帆さんが当時のTwitterでバズって、それが歌集の帯になって出て、みたいな感じが大きかったんじゃないでしょうか。

――SNSの普及や盛り上がりと連動していたかもしれない。

Xだとつぶやきやすいのもあるかもしれませんね。エッセイや小説を書こうと思うと、いきなりは書けないじゃないですか。でも短歌って、書いてみたら意外と書きやすい。

――それは大きいですよね。

57577という型があるのが大きいですよね。小説や詩だと、自分で完成を決めないといけないし、無限に書き続けられてしまうので。

――入りやすさがある、と。短歌ブームとZINEのブームって、けっこう連動してた気がしてるんです。短歌が来て、その後にZINEイベントがバーッと増えた感じがして。

ZINEもとりあえずつくってみやすいというのはありますよね。

――そこは共通している。読む方も、長いのはしんどいときでも、パラパラ読みやすいですし。

そうですね、気軽に読んでほしいです。

 

ZINEをつくりたい人へ

――ZINEを新しくつくるのはハードルが高い……と思う人もいると思うんです。どういうところから手をつけるといい、というアドバイスはありますか?

どうつくるかよりも、何を書きたいかの方が大事だと思います。写真を撮っているとか、もし誰かに見せたいものがすでにある人は私はぜひそれをみんなに見せてほしいです。

――ZINEをつくってみたいけど、特にネタはない、という人は?

仲間を集めてみるのがいいんじゃないかと思います。

――なるほど。

友だち3人くらいでつくったら、きっと楽しいと思う。「〇〇について書こう」みたいなテーマじゃなくても、それぞれがやりたいこと載せたらいいですよね。

――いいですね。谷じゃこさんがつくられたアンソロジーもそういう感じですよね。

そうですね。『わりかしワンダーランド』は大阪の人たちでつくったZINEなんですけど、なべとびすこさんと2人で編集しています。
なべとびすこさんはラップが好きなんですけど、ラッパーの方って「レペゼン◯◯」って、町に敬意や愛着を示されるじゃないですか。沖縄のラッパーが、沖縄を盛り上げようとしてグループでラップをつくられたのを見て、それの大阪版をやりたい、となって始めたんです。

――いいですね。仲間を集めてつくるっていうのは、まず手をつけやすい。

書きたいものがある人はもうその時点で素晴らしいので、どんどんつくられるといいですよね。

これから出るイベント

――これからこういうことをしてみたい、というのはありますか?

やりたいことはいっぱいあります。行ったことのない町のZINEイベントに出てみたい。あと、わりと印刷屋さんにお願いしてつくってばっかりなので、もっと手づくり感のある、手を加えてつくるタイプのZINEもつくってみたいです。

――次に出るZINEのイベントは決まっていますか?

7月に神戸の「ふたばZINEフェス」、9月13日の文学フリマ大阪です。

――それぞれのイベントで新しいZINEを出していく感じですか?

神戸と大阪には何か作りたいと思っていて、まだ何かは決まっていないです。

――大事なのは先にイベントに申し込むこと、ですよね。

そうですよ、申し込んでから始まる、っていう感じです。

―― ぜひ会場でも、また会えればと思いますし、聞いている方もぜひ来ていただければ。今日はありがとうございました。

ありがとうございました。


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DIY BOOKS店主(編集者・ライター)
平田提

DIY BOOKS店主、編集者・文筆家。秋田県生まれ、兵庫県在住。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業。ベネッセ等を経て2021年に株式会社TOGLを設立。2023年10月より尼崎市・武庫元町で「つくれる本屋」DIY BOOKSを開店。今まで5,000冊ほどリソグラフで刷って手製本してきました。ZINEを2013年ぐらいからつくっています。