編集者・藤原武志さんに聞く、ZINE制作に使えるエディトリアルデザインの話
平田提Share
編集者・藤原武志さんは大阪の編集プロダクションから出版社を経て、独立し、株式会社藤工作所で雑誌の仕事から自社での出版、地域でのイベント企画まで幅広く手がけている。今回は、20年余りのキャリアで蓄積した雑誌制作の実践知をたっぷり語ってもらいました。自ら資料として持参してくれた雑誌の束を眺めながら。ZINEの制作にも役立つお話があるはず。
※Podcast「つくれる本屋のラジオ」で全編お聴きいただけます。これは前編。
雑誌の写真、「明るい」「暗い」どっちが正解?

(藤原さんがかつて編集の一部を担当した雑誌『大人組』のある号の見開き。写真は暗めだった)
藤原さんが最初に勤めた編集プロダクションでは、写真は「明るくないとあかん」という鉄則があったそう。カメラマンが標準・1段オーバー(明るい)・1段アンダー(暗い)の3枚を上げてくる中から編集者が選ぶ。選ぶたびに社長が「違う、こっちや」と明るいほうに印を入れたという。
──写真の明度って難しいですよね。写真を選ぶのは楽しいけど。
そうそう。最初に勤めた編プロの社長が写真は明るくないとあかんっていう人だったんで、ずっと一段明るいやつを選ばされてたんですよ。
でも次に移った出版社ではまるで逆。「お前、何でそんな馬鹿みたいな写真選ぶの」って怒られる。明るい写真は「馬鹿っぽい」って言うんですよ。だから僕、最初はわけが分からなくて。
──混乱しますね……。
そうなんです。でも後になって分かったのは、どっちも言い方が雑だったっていうことで(笑)。どちらも全体的に明るい・全体的に暗いものを良しとしてるわけじゃなくて、影があるなかにバーンと明るさがあるとか、きれいに日が差しているなかにどっしり陰影があるとか。そういうイメージは共通しているんです。コントラストがあると、奥行きが生まれる。それを「暗い方がいい」とか「明るい方がいい」って雑に言ってただけで。カメラマンも当然分かっているから、明るさと暗さのコントラストがある写真を撮ってるわけですよ。その差が写真に奥行きを生んで、雑誌って平面なのにレイヤー感が出る。
──なるほど。ただ明るい・暗いどちらがいいかはメディアによっても違いますよね。
全然違います。『るるぶ』みたいな情報誌だと、たくさん文字が載ってインクもたっぷりだし、雰囲気的にも明るい写真の方が映える。でも旅の情緒を伝えるような落ち着いた雑誌だと、陰影のある写真の方が深みが出る。トーン&マナーの問題なんです。
「裁ち落とし」と「白場」紙面を広く、あるいは深く見せる
──藤原さんが持ってきた雑誌を見ていると、すごく写真が大きく使われてますよね。
写真を紙面全体まで使う裁ち落としですね。家庭用のプリンターでコピーすると白いフチが入るじゃないですか。あの白を切ったら裁ち落としになる。
──裁ち落としの効果ってなんでしょう。
白いフチがあると、そこで終わって見えるんですよ。でも紙の端まで写真があったら、その先もまだ続いてる感じがする。A4とか限られたサイズなのに無限の広がりが生まれる。だから風景写真とか、特集の扉ページとかでよく使うんですよね。
逆に、写真の周りに白い余白(白場)が多いと額縁みたいな効果で、目が写真の中央にギュッと集まる。だから細部を見せたいものは白場の方が正解だったりする。
──ずっと裁ち落としだけだと飽きる、というのもありますよね。
そうです。メリハリ。だからリズムをつけるために「切り抜き」を使うこともあります。人物や物を背景から切り抜いた写真を置くと、白い面積が増えてページに変化が出る。
裁ち落としでも白場があっても、角版(切り抜いていない四角い形の写真)だけで構成していると、単調になってくる。切り抜きを混ぜることでメリハリがつく。動きもでる。
その雑誌や特集、記事や目的によっても変わるから一概にどれがいいかは言えなくて、前のページ・次のページとの流れや雑誌全体の文脈で決まるものなんですよ。
・関連記事:塗り足しとは?ZINE入稿の前に必ず確認すべき設定方法
グリッドとその「破り方」
──僕は『relax』が好きなんですけど、2000年代の雑誌を見ると切り抜きが多い印象です。写真と文字がすごくきっちりした配置になってますよね。

(手前が『relax』のマイク・ミルズ特集号、奥が90年代の『BRUTUS』。若かりしころのアンダーカバー高橋盾さんが)
『relax』をあらためて見てみるとグリッドレイアウトが印象的ですね。紙面を縦に3段か4段に割って、写真も文字も全部そのグリッドにそって並べる。バウハウスの時代からある情報整理の基本で、それがすっきりとしていておしゃれな感じでした。
──フォントだとHelvetica(ヘルベチカ)を使ったり。一方で90年代の『BRUTUS』を見ると全然違いますよね。
ぶっ壊してますよね(笑)。グリッドレイアウトから抜け出して、自由にデザインされているよう。文字が斜めに走ったり、文字が手書きだったり。ZINEもそういう自由さが出せますよね。でもやっぱりずっとフリーだと疲れるから、読ませるところはきっちり読ませてメリハリをつける、っていうことが大事で。

──結構天地(本の上下)ギリギリに文字がレイアウトされていたりする。最近の『POPEYE』なんかでも天地ギリギリに文字を入れてたりしますよね。
そうなんです。昔は印刷屋さんに「端まで行くのはやめて」っていわれてたんですよ、技術的に難しいから。今はそこまで制約がないんで、もっと自由に使えるようになったところもあるんじゃないかな。自信ないけど。でも逆にグリッドに戻ってたりもして。僕は90年代の雑誌が好きで、いつも雑誌ってこうだよな、というヒントをもらっています。
「先割りするな」——デザイナーと写真で対話する
──誌面をつくるときの流れはどんな感じなんでしょう。
先に文字とレイアウトを決めてから写真を当てはめるっていうのがやりやすいんですけど、それは「先割り」って言って、出版社にいたときよく怒られてたんですよ。
──なんでダメなんですか?
先に配置を決めてしまうと、写真が上がってきたらそこに押し込むだけになりがち。ブログの記事と同じというか、写真・文字・写真・文字って均等に並んでいくだけで。雑誌はそれだけじゃない。写真に合わせて大胆にレイアウトを変えたほうがすてきだったりする。デザイナーがおもしろがれる余地があるのは素材がすべてそろってからだと思う。
でも先割りしないと進行がうまくいかないこともあるからバランスなんですけどね。「この写真はドーン! で、次はちっちゃく」ってデザイナーとカメラマンと編集者が集まって、キャッキャ言いながら決めてたんですよねかつては。
──今はそれが難しくなってますよね、リモートとか。
難しいですね。メールやLINEなんかでやり取りするんだから、以前のようなコミュニケーションはなかなか取れない。だから今、制作費が安くなってきた中で、1人で撮って・書いて・レイアウトもする、っていうやり方もあったりする。自分の中で完結するから判断が早い。
――ZINEも言ってみればそうですよね。一方で、意外なレイアウトのアイデアが出にくいのもあるかもしれない。
そういう意味で、さっきの90年代の雑誌とかを見てると刺激になると思いますよ。
ページの「ウエイト(重さ)」を意識する
藤原さんが持参したANAの機内誌『翼の王国』の有名コーナー「おべんとうの時間」を見ると4段組なのに、上部に大きな余白がある。

(『翼の王国』の「おべんとうの時間」)
──これ、上がかなり空いてますよね。
きっちり天地均等にしたら、落ち着かなくなるんでしょうね。
──上が空いてると安定感ある、ってことですか。
上に空きがあると、重さが下にいくんです。重心が下にあるから安定する。逆に文字を上に詰めると、浮遊感がでる。でもそれはそれでハマることだってあるわけです。
雑誌の写真技法はWebに転用できない
──藤原さんが持ってきた90年代の雑誌を見てると、今見ても全然古くないというか。でもこれWebには転用できない技術ですよね。モバイルとパソコンでレイアウトを変えるレスポンシブを意識すると、写真と文字が一体になった雑誌のデザインは絶対無理。画像か固定レイアウトにしないといけない。
そうですね。写真の上の白抜きの文字とか、裁ち落としの写真、見開きのダイナミックなレイアウト、全部「紙」だからこそ成立するんです。だから雑誌をたくさん見ると、ZINEを作るときのヒントがあると思います。
──スマホの写真に慣れていると、雑誌の写真って暗く感じますよね。
感じます感じます。RGBの光る画面の写真に慣れてると、印刷した写真を見たときに「なんか暗い」ってなりがち。ところがね、それで明るくすると馬鹿っぽい写真になってしまうんです(笑)。普段から雑誌をいっぱい見て、目をリセットしておいたほうがいいんじゃないかなぁ。知らんけど。
(この記事は「つくれる本屋のラジオ」の収録をもとに編集しています。後編では、藤原さんの仕事の現在とZINEへの見方を聞きます。)
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