文筆家phaさんと。ZINEブームとテキストサイトの時代はどこか似てる

文筆家phaさんと。ZINEブームとテキストサイトの時代はどこか似てる

平田提

文筆家のphaさんとちゃんと話したのは、この収録が初めてだった。文学フリマや書店のイベントでチラッと顔を合わせたことはあった。蟹ブックスで仕入れていただいた自分のZINEの支払いが、phaさんはいつも驚くほど早い(ありがたい)。接点としてはそのくらいの感じだったが、ずっと僕はphaさんの読者だった。はてなダイアリーや書籍も。
お会いする前に『書きたいことがない人のための日記入門』を読む。読んだあと、noteに日記を書き始めていた。以前もphaさんのエッセイを読んでから、サウナに通うようになったことを思い出した。phaさんの文章にはそういう力がある。ひとつひとつの言葉はゆるくても、じわじわと日常に滲み込んでくる。特にテーマも決めず、ゆるくphaさんと話してみた。


日記と、書くことの始まり

―― 『書きたいことがない人のための日記入門』を読んで、すぐnoteに日記を書き始めましたんです。

本当ですか。それはすごいこと。

―― 書いてみて、文字数のバランスってめちゃくちゃ大事だなと思いました。特に何もなかった日は、ちゃんと書かなくてもいいっていう。

そうですね。書こうと思ったらいくらでもダラダラと長くなるんですけど、メリハリがあった方がいいかなと思って書いてます。

―― 日記を書くとき、紙に打ち出して推敲することはありますか。前にphaさんの文章でそんな風にされているのを読んだ記憶があるんですけど。

日記は印刷しないですね。本当にだらっとざっくり書くだけで。でも仕事の文章だと印刷して推敲することはあります。客観的に見られるようになるというか、長い文章の全体をめくりながら把握できる。ちゃんと文章を作りたいときはそうしますね。

―― phaさんのブログや日記を読んでいて、好きだなと思うのは、こうずっと勢いよく何かが続いた後に、最後にひとこと、自分を正しくしてくれる感じがする文章が入るところで。

ちょっと自分なりの言葉で何か短く付け加えておきたいなあ、というのはありますね。

―― 例えば『曖昧日記』のなかで、映画『カメラを止めるな』を見に行ったら満員だった、面白かった「映画って面白いんだな」みたいな一言。こういう一言が、phaさんらしいなと思っていて。

なんかすごいことや目新しいことを言ってるわけじゃないけど、自分が本当に感じたことは残しておきたいみたいな。そういうのを書くのが日記かなと思っているんです。


書くことが仕事になった。できないことが増えた40代だからこそできること

 

―― はてなダイアリーの頃から書いていますよね。もう20年近くになるんでしょうか。

そうですね。

―― 書くことは、ずっと続いている。

続いてますね。2012年に最初の本を出して、そこからずっとやってます。
―― 今は一番頑張って書いている時期、という感じがしますか。

今が一番かもしれないですね。昔は書いてたけど、半分趣味みたいな気持ちでやってたところがあって。最近はなんか仕事としてちゃんとやろうという意識が変わってきた感じはあるかもしれないです。

―― そこらへんって、どういう違いが出てきますか。

やっぱり年を取ったのが大きいと思うんですけど。20代とか30代の頃はいろんなことをやってたというか、なんかまだ自分が何になるか決めずに、いろんなことをやってみたいという気持ちが強かった。でも40代になると、エネルギーも減ってくるし、興味の幅も狭まってくる。そんなにいろいろできないなって感じになって。自分にこれはできるから、まあやっていこう、みたいな感じになってきた。

―― 分かります。私はいま43歳なんですけど、めっきり体力の衰えを感じるようになってきて。ジェーン・スーさんの『私がおばさんになったよ』の中で、40代のスキルと20代のパワーがあれば最強なんだけどそれはできない……みたいなことが書いてあって。

昔パワーあったけど、うまくいかせてなかったというか。昔はなんか本当にいろんなことができるからこそ、エネルギーがいろいろ分散してたけど、なんか今は逆になくなったからこそ、ひとつのことに集中できる感じがありますね。やっぱり昔はなんか何にでもなれるような気がしてた。その代わり覚悟が定まってなかったところがある。


書くことと、話すこと

―― もともと小さい頃から文章を書くのが得意だったり、好きだったりしたんですか。

そんなことはないですね。本を読むのは好きだったけど、書くようになったのは大学生の時くらいからで。書きたいことが別になかったですから。若い頃って、書きたいことないと思うんですよね。

―― 確かに。

若い頃は小説家は割と若くしてデビューする人がいるけど、自分は別に小説を書きたいわけでもないし、自分の中にそんなに主張したいことがあるわけでもないし。エッセイとか、自分のことを書くのが好きなんですけど、やっぱり若い頃はそういう経験が溜まっていなかったので。なんかいろいろ書けるようになったという気持ちがありますね。

―― みうらじゅんさんの『アイデン&ティティ』でも、表現はしたいけど表現すべきものがない、みたいな葛藤があったりする。あれ分かりますよね。

でも、歳をとって味が出る部分はありますよね。若い頃のエッセイって、やっぱりそこまで面白くないなと思うことがあって。別に愛憎もそのひとの人生観もやっぱりそんなに深みがない、みたいな感じ。

―― 人間が出るもの、というところがありますよね、エッセイや日記って。

そうですね。

―― phaさんはしゃべることと書くことって、どんな関係にありますか。書くときの文体とか自分とか、全然別ですか。

結構別ですね。しゃべるとか聞くのは苦手で。昔からなんですけど、本当に耳から聞くのが全然頭に入らない方で。書く、読むをやらないと、あまり考えられない感じがある。しゃべりは全然別な感じですね。

――『日記入門』の中に書かれていましたけど、小説が向いている人と日記・エッセイが向いている人は結構別れる、と。

そんな感じはしますね。海猫沢めろんさんや佐藤友哉さん、瀧本竜彦さんとのバンド「エリーツ」をやっていますが、佐藤さんや瀧本さんは自然と小説が書ける感じみたいで。めろんさんはエッセイも書くタイプですけど。自分は日記やエッセイが自然に書けるので、結構そういう違いはあるんだなと思います。

蟹ブックスで書店員としても働く

https://kanibooks.stores.jp/items/6716157c0faafe018361c707

―― 話は変わって、蟹ブックスでお店番をされるようになったのはいつ頃からですか。

3年前くらいですかね。もともと蟹ブックスの店主の花田さんとは知り合いで、たまたま家の近所に新しく店をオープンするというので、よく遊びに行ってたんです。そうしたら「スタッフが1人辞めるから代わりに入らないか」という話をもらって。

―― 仕入れもご自身でされるんですか?

ある程度は自由に仕入れられますね。よっぽど店に合わないのでなければ。返本もできるし。それとは別に、僕が自分で個人で仕入れたものを売っているものもありますね。自分の財布で仕入れて売る、みたいな。

―― 書いてる人の立場と、売る人の立場と、両方あるということですよね。

そうですね。一人暮らしを始めてから、文章を書いてるだけだとちょっと孤独になってしまう。人の集まる場所にもう少し行きたいなっていうのもあったから、ちょうどよかった。今も文章を書くのがメインだけど、時々蟹ブックスに行ってというのが、なんかちょうどいいバランスでやれてるなあと思います。

―― 私も書店としてはほとんど最近開けていないんですけど、閉じれば閉じるほど自分が不健全になっていく感じがして。町の人に「シャッターいつも閉まってるね」って言われると「あ、僕って引きこもってるみたいに見られているのかな」って。

フラッと人が来るというのは大事なんですよね。けっこう。

―― 一方で『曖昧日記』の最後の方では「シェアハウスに疲れた」って書いてましたよね。

疲れますね。昔はシェアハウスをやっていたけど、今はやっぱり一人が楽だなっていう気持ちはある。ずっと一人だと寂しくなるというのもあるんですが、シェアハウスみたいに本当に常に何人もいるみたいなのは、それはそれで疲れる。


ZINEの時代、書く人が売る時代

―― phaさんは書く立場と売る立場と両方あると思うんですけど、最近のZINEや出版のあり方って、どういうふうに感じていますか。

つくる目線と売る目線、自分の中に両方あることはいいんじゃないかという気がしますね。書きたいという気持ちで書いたあと、一旦切り替えて、これはどうやったら売れるかって考えて……みたいな。昔の作家は書きたいことを書いて、売り方は編集者に任せていたみたいなのが多かったのかなと思うんですけど、今はなんか自分でやる人が増えてきている。両方自分でやるみたいな人が増えてる。

―― 本当にDIYを求められている。

まさにそうですね。書いて、デザインどうするかとかも考えて、売るのもどうするかとか、書店に卸すのもあるし、自分で売るのもあるし、全部自分で、みたいな。

―― 数年前ぐらいは作家が自分でX(旧ツイッター)でプロモーションしないといけない時代になった……みたいなことが言われてたと思うんですけど、今はそれがもはや当たり前というか、さらにもう、自分でZINEを作ったりとかになっていますよね。

変わりましたね。まあ、僕はその方が楽しいなと思っています。書くことだけやっていたいっていう人は、なんでそんなことをしなきゃいけないんだって思うかもしれないけど、自分でいろんなことをやるのが性に合っている感じがしますね。だから、自分に向いている時代になったなというふうに思っています。

―― テキストサイトの時代に、みんながHTMLとスタイルシートをちょっと勉強して、サイトをつくって文章を書いていたのと似ていませんか? デザインを考えてZINEを作るのって。

似てると思います。今みんなが日記をZINEにしているのは、本当に昔みんながWebで日記を書いていた頃みたいな感じですよね。


―― エリーツで全国の文学フリマに出られていますよね。

割とよく行きますね。地方に行くと、そういう、ずっとそこに住んでて読んでましたという人に会えるのが面白いですよね。

―― もし関西に来られる機会があれば、うちでもぜひイベントを。

ぜひ一度お伺いしてみたいと思います。


話しながら、phaさんは終始おだやかだった。飛び出す言葉が大きくないのに、あとからじわじわと腑に落ちてくる。日記について、書くことについて、体力の話、ドラムの話、書店の話、ZINEの話。なんか僕は普通のことしか言っていないけど……自分が本当に感じたことは残しておきたい。そう言っていたphaさんの声が残っている。



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DIY BOOKS店主(編集者・ライター)
平田提

DIY BOOKS店主、編集者・文筆家。秋田県生まれ、兵庫県在住。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業。ベネッセ等を経て2021年に株式会社TOGLを設立。2023年10月より尼崎市・武庫元町で「つくれる本屋」DIY BOOKSを開店。今まで5,000冊ほどリソグラフで刷って手製本してきました。ZINEを2013年ぐらいからつくっています。