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zine

【試し読み】寄稿した卒業生のZINE『シッパイイッパイ』販売会があります【2/24】

2025年2月12日

シッパイイッパイ

こんにちは。DIY ZINEスクール1期生のシキタリエさん(編集)と川瀬亘さん(デザイン)によるZINE、『シッパイイッパイ』の販売会が2025年2月24(月・祝)に行われます。当日はZINEスクール4期が2階で開催中で僕はそちらにおりますが、終わったあとにお顔を出す予定です。

このZINEに僕も寄稿させてもらっているんですが、良いZINEです。いろんな人のシッパイが集まってて、ほっこりする。シッパイしますね。にんげんだもの。

装丁もよくて、表紙は白黒で印刷されているところに蛍光ペンで塗っているんです。当日もしかしたらそういうワークショップもあるかも。

許可をいただいたので、僕が寄稿した文をこちらにアップしておきます。参考までに! 祝日ですので、予定が合えばぜひお越しください。普通に開店していますので、もちろんそれ以外のZINEや書籍もお買い上げいただけます。

「ふたりのサンタ」

 今も思い出す、小学校のころに経験した失敗が「ふたりのサンタ」事件である。当時、恐らく秋田県秋田市の小学校に通っていた三年か四年のころ、年に一回あるクラス発表会で劇をやることになった。僕が劇をやりたくて手を挙げたら、同じ班のみんなは特に意見がなくて劇に決まった⋯⋯ぐらいの空気感であった。それもあって、僕が脚本を担当することになった。

 ともあれ、年末の発表会に向けて準備は着々と進む、僕らの班以外は。あれだけ劇がやりたかったのに、僕は脚本を書けずにいた。演目を事前に先生に届けなくてはいけなかったので「ふたりのサンタ」というタイトルだけ先に送っておいた。

 当日。三十分前になっても脚本は一行もできていない。僕以外のメンバーも焦って、僕にせっつく。でも顔面蒼白の僕からは何も出てこない。とりあえずサンタの格好をした僕を含めた二人と、トナカイ数人が、段ボールでつくったソリだけが置かれた舞台(教壇)に上がっていく。さあなぜ「ふたりのサンタ」なんだ。時間軸の違う二人が出会う? どちらかがニセモノってことにする? そのぐらいの話は誰かと直前まで話していた。コント師でもない、ただの小学生にこんなしんどい場を乗り切れるだろうか?

「さあつぎは三班の発表です!」と先生に呼ばれて出ていくも⋯⋯即興劇はできるわけがない。「ごめんなさい、間に合いませんでした」と言って、場が白けて終わったのを覚えている。メンバーにも先生にも、あとで怒られた。申し訳ない気持ちと悔しさでいっぱいだった。

 僕はそれで学ばず、高校に入ってから「映画研究会」を立ち上げて文化祭で映画を出そうとしたけど、結局当日まで撮らなかった。大学の映画サークルでも脚本が二年書けなかった。向いていないことをしようとしてきた人生だった。今でもそういうところはあるけれど。

 「ふたりのサンタ」の経験からそうなったのかは分からないが、今の僕は「沈黙をどうにかする」スキルは持ち得ていると思う。編集者・ライターとして色んな人にインタビューをしたりトークイベントをしたりするようになって、アドリブ力がついた。その場で面白い話を引き出すことに歓びを覚える。そうしないと生きてこられなかったからでもあるが、同じような場を何とかするようにして力に気がついたのかもしれない。

 会社の事業も無計画で良くないのだが、台本がないほうが僕には向いてるんだなとしみじみ思う。

カテゴリZINE, お知らせ, イベント 関連タグ:zine, お知らせ, イベント

リソグラフの使い方。機械の操作とデータの作り方も

2024年11月15日

リソグラフの使い方

理想科学工業の孔版印刷機リソグラフはアジのある印刷ができることで、ZINE(個人がつくる少部数の冊子)やペーパークラフトなどの制作に人気です。
ただ普通の印刷機とは使い方が違うので、注意も必要。リソグラフの基本的な使い方を解説します。

リソグラフとは?

リソグラフの使い方

リソグラフとはRISO(理想科学工業)の孔版印刷機。RISOは、かつて年賀状印刷などを目的に「一家に一台」はあったであろう、プリントゴッコの会社です。現在プリントゴッコは生産終了していますが、リソグラフはプリントゴッコ同様、シルクスクリーンのように印刷する機械です。
毎回「版」をつくり、その凹凸にインクがしみこみ印刷される仕組みです。

学校や公共施設に多いが、海外人気で「リソスタジオ」も

「ガリ版」代わりに小学校や市役所に普及し、今でも教育機関や公共施設に置かれていることが多いリソグラフ。そういった場所では、よく「●枚以上はリソで」など枚数が多い場合に使われることが多いのですが、理由はマスター(版)代が少ない枚数に対してはやや割高になるためでしょう。

アート作品やZINEづくりに利用されることが多く、海外で人気に火がつき、2,000年代以降日本でも人気になりました。今では全国・海外にリソスタジオがあり、下記のページで探すことができます。

https://www.riso.co.jp/learn/risoart/links.html

リソグラフの得意なこと

アジのある仕上がり

リソグラフの特長は、なんといっても風合いのある仕上がりでしょう。インクが紙に染みた感じはインクジェット機などと比べるとどこか懐かしい印象があります。

同じ面を大量に速く刷る


版をつくって刷るので、チラシ印刷などは得意です。そのため不動産屋さんにも多く導入されています。

文字がきれいに出る

紙との組み合わせにもよりますが「HG(ハイグレード)」の黒インクなどで刷ると、フォントが美しく表現できます。

リソグラフの使い方

スキャンして手書きの絵や文字などを取り込んで版をつくることも可能です。

苦手なこと

一気に複数ページを出力する

家庭用やオフィスの一般的なプリンターなら、例えば16ページのパワーポイントの資料を「Ctrl+P」で出力すれば、そのまま16ページ順番に印刷されるはずです。ところが、リソグラフでは版を1度に1枚(2色機なら2枚)しかつくれないため、16ページの資料でも1ページ分しか刷ることができません。
そのため、冊子をつくろうと思うと見開きごとに印刷して重ねていく必要があります。

やや割高

マスター(版)代が高いため、印刷枚数が少ないと印刷費用がやや割高になる傾向があります。ただ1度版をつくれば、枚数を刷れば刷るほど安くなります。

高精細な写真は苦手

グラビア印刷のようにはっきりした4色(カラー)の写真を印刷するのは苦手です。その代わり、グレースケールや1色でアジのある印刷はできます。また、Adobe PhotoShopのチャンネル分解などを利用して擬似的にCMYKの4色の版を重ねることでカラー印刷「風」にすることはできます。

リソグラフの使い方
リソグラフの使い方

ドラムが高額なため、色を増やすのは大変

どちらかというと運営側の問題ですが、インクとマスターを設置する「ドラム」が1つあたり約15万円程度するため、色を増やそうと思うと高額になる傾向があります。

リソグラフの使い方

基本的なリソグラフの使い方を紹介します。
※DIY BOOKSにある2色機MF935を例に解説します。1色機などの場合は仕様が異なるため説明書等を参照ください。

1.電源を入れる

リソグラフの使い方

2.必要に応じて暗証番号を入力

リソグラフの使い方


ユーザー登録しているとカウンターで利用枚数集計ができます。

3.ドラムを入れる

リソグラフの使い方

必要に応じて使う色のドラムを入れます。

リソグラフの使い方

4.紙をセットする

ボタンを押して紙を載せる台を下げます。

※下の写真には映っていないですが、青いボタンを長押しします。

リソグラフの使い方

5.パソコンなどの端末からデータをリソグラフに送る

PDFであればAdobe Acrobat Readerで開き、Ctrl+Pやメニューバーから「印刷」を選びます。ドライバーで「プレビュー・編集」を選んでいるとプレビュー画面が開くので問題なければ、さらにここでCtrl+Pかプリンタアイコンをクリックして出力します。

6.「出力待ち」を出力→版がつくられる

リソグラフが「ピピッ」と鳴ったらデータが飛ばせています。その後はリソグラフのモニターの「出力待ち」でファイル名を確認し、出力します。印刷中など、鳴らないときもあります。版をその日最初にそのドラムでつくる場合、アイドリングの時間が長くかかることがあります。
まず版がつくられ、その後に試し刷りが1枚印刷されます。版ごとに1枚版の印刷がなされるため、2色刷りの場合は計3枚がまず刷られます。

7.問題なければ印刷枚数を入力して「スタート」

リソグラフの使い方


必要に応じて濃度やスピードを調整できます。これでひとまずは印刷できます。

ドライバーのインストール

理想科学工業のWebサイトからドライバーをダウンロードし、説明書等の表示に従って、ドライバーをインストールしてください。
※Mac版は有料のようです。

印刷プロパティの見方

Windowsの場合、スタートメニューやタスクバーの検索窓から(Windows11の場合)「プリンターとスキャナー」>リソグラフの型番(RISO MF935など)から選択して「プロパティ(印刷設定)」を開きます。
よく使うのは「分版設定」です。

リソグラフの使い方
リソグラフの使い方

・分版設定
まず「1色」か「2色」を選びます。

リソグラフの使い方

ドラムの色は前回利用したときの情報が残っている場合がありますが、ドラムを物理的に交換したあと「更新」を押すと実際のドラム色にリフレッシュされます。

マニュアル分版

通常は「オート分版」ですが、あまり正確に色を判別してくれないこともあります。マニュアル分版を選択し、「黒→ドラム① その他→ドラム②」などに設定することで、カラーのデータを自動でリソグラフが判別して分版してくれます。うまくいかない場合はいくつか組み合わせを試してみると良いでしょう。

リソグラフの使い方
リソグラフの使い方


文字・写真それぞれなるべく近い設定にします。
もし1色で(データはグレースケール)で行う場合は、分版設定はほぼ必要ありません。

分版が反映されない場合はキャッシュの可能性があるので、一度面倒ですがアプリ・ソフトを再起動すると反映されることが多いです。

リソグラフの使い方

プレビュー画面でフリーハンドや矩形(くけい)選択し、選んだインクで塗りつぶしをすることで、ある程度分版設定を手動で行うことも可能です。

冊子の印刷の場合

一度表を印刷してから裏返して刷ります。このとき、天地の方向を合わせればOKです。表を印刷したときに写真を撮っておくと間違いないでしょう。

データの作り方

データの作り方については、レトロ印刷JAMさんが豊富な事例を上げられているのでぜひ参考にしてみてください。

色を重ねて表現する

例えば当店DIY BOOKSには赤・青・黄・黒のインクしかありません。「緑」を表現しようと思うと、黄色を刷ったあとに青を重ねる必要があります。この場合は1色印刷を繰り返します。データはグレースケールで濃度を調整します。

リソグラフの使い方


重ねがけの見本もレトロ印刷JAMさんの商品「あそびカタログ2」が参考になります。

よくあるエラー

紙がつまったら

よく起こるのが紙詰まり。リソグラフが知らせてくれるので、詰まった紙をやさしく引き抜きます。
ちなみにダイヤルで紙の厚みに合わせた調整もできるので、特に厚い紙の場合は試してみるのもいいでしょう。逆に薄すぎて詰まる場合は、紙がリソグラフに適していない場合がありますが、内部のブロワー(風圧)を変えることでうまくいくこともあります。ただこれは個人の利用者の方が行うよりも、管理者に行ってもらったほうがよいでしょう。

リソグラフの使い方

重送になった場合

紙が重ねて送られてしまう重送(じゅうそう)。白紙のページが出てきたときにリソグラフが通知してくれます(検知設定をONにしていると)。白紙のページは重ねた紙の一番下に戻すなどするといいでしょう。
一度紙の束全体をさばいて空気を入れるか、少しだけ加湿器などで全体的に湿らすと通りやすくなる場合があります。

【参考動画】

インクの入れ替え

リソグラフの使い方

インクがなくなった場合は、ドラムのインクを回して抜き、新しいインクのボトルのフタを外して回し入れます。

リソグラフの使い方

古いインクのボトルは連絡すると理想科学の営業さんに回収してもらえます。あるいは新しいボトルの注文時に段ボールが届くのでそちらに入れると返送できます。

マスターが詰まった

リソグラフの使い方


マスターが一定量排紙されると警告表示がされます。その場合は排版ボックスの水色の部分を触りながら引き抜き、要らなくなったマスターを捨てて戻します。
※その他の部分も同じく、水色のパーツが「ユーザーが触っていい部分」です。

マスターの入れ替え

リソグラフの使い方

マスターがなくなったら、手順に従って古いマスターを取り出し、新しいマスターを少し引き延ばし入れます。

「このサイズは2色印刷できません」という表示が出たとき

リソグラフは、用紙の短辺での給紙しか基本できないため、不定形であったり長辺で給紙しようとしているとこのエラーが出る場合があります。データや給紙の向きを変更するか、用紙をきちんと給紙台に乗せ、調節のつまみを紙に合わせるようにすると解決する場合があります。

まとめ

以上、リソグラフの概要や基本的な使い方を紹介しました。まずエラーが出たり分からなくなったりしたら、管理者に聞いたり説明書を見たりするようにしましょう。リソグラフは印刷設定などかなり奥深いものがあるので、興味を持ったらぜひ調べてみてください。

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カテゴリZINE 関連タグ:zine, リソグラフ, 作り方

菊池良『夢でする長電話』より「靴下、探していますか?」を無料公開

2024年7月6日

『もしも文豪がカップ焼きそばの説明文を書いたら』『ニャタレー夫人の恋人』などの菊池良さんによる『夢でする長電話』。

「犬のファッション革命」「ほんとうのパーソナルコンピュータ」「カレーをシチューに変える装置」など、日常の気づきから始まるアイデアの連鎖。エッセイでもあり、ショート・ショートでもある不思議で心地よい読後感の作品です。

ぜひ独特の読み味を味わっていただきたく、ここでは「靴下、探していますか?」を全文公開します。気に入ったらぜひ購入ください!


「靴下、探していますか?」

 靴下を手にとって、片足に通したあとにはっと気がつく。

 靴下がない。片方だけない。

 なぜか靴下はたいていペアになっている。だから、左右揃えて履かないと、なんだか居心地が悪い。けれども、靴下自体は左右分離している。そのことによって、この問題が起きる。

 靴下がないと、すこし焦る。だけど、たいていはちょっと探すとすぐ見つかる。ほっとする。ああ、なくしたわけじゃなかったんだ。靴下は、存在していた。

 どんな人間も、きっと靴下を探している。片方だけ履いた状態で。素足をすこしだけ上げてバランスをとりながら、「あれ? ひょっとして靴下がない?」。ちょっとバランスを崩して、素足が床について「冷たっ」となる。

 かつて好況に湧くニューヨークの光と闇を書いた『華麗なるギャツビー』。その作者であるスコット・フィッツジェラルドにもそんな瞬間があったはず。きっと。

 ぼくらには等しく靴下の片方だけがない。世界中の、あらゆる場所で。

   ☆

 「探す」という行為は片方がないときだけに生まれる。片方の靴下を手にとって、もう片方を探すのだ。両方ないときは、探さない。なくなっていることにすら気づかない。静かになくなり、記憶からもなくなる。この事実にはちょっとゾクッとする。両方ないから探されていないものが、この世界にはいっぱいあるんじゃないだろうか? なくなってしまったことばが、だれにもつぶやかれないように。

 かつてぼくらは宇宙の一部だった。それがエネルギーの爆発によって分かれて、散り散りになってしまった。生きものがパートナーを求めるのは、かつてひとつだったときの名残だとか。靴下も、かつてはひとつだったのかもしれない。

   ☆

 たいていはすこし探したら見つかるが、いくら探しても見つからないときもある。これは困ったことだ。選択肢はふたつある。

①片足だけ、別の靴下にする

②すでに履いた靴下を脱いで、別の靴下にする

 あなたならどうする?

 だが、ここにはひとつのパラドックスがある。①を選べる勇気あるものは、最初から靴下を探さないのではないか。適当に手を伸ばして、最初に掴んだ靴下を履くだけじゃないのか。そうなると、そもそも「探す」という発想がなくなる。

 ①を選ぶということは、左右違う柄になる。なんだか落ち着かない。これに落ち着けるひとは、靴下を探さない。たまに左右同じ靴下になると、「今日はラッキーデイだな」と思うくらいかもしれない。

 道行くひとはみんな左右同じ靴下を履いている。そのなかで、ひとりだけ「ラッキーデイ」のひとがいる。左右が同じだから。すこしだけ浮足立っているかもしれない。スキップをするかのように。

   ☆

 探しても見つからない場合もある。あるはずの場所をいくら探しても見つからない。なくしてしまったのだ。

 靴下はいったいどこへ消えたのだろうか。ものがなくなるなんてことはない。見つからないだけで、絶対にどこかにある。

 だれかが持っていってしまったのかもしれない。いったいだれが?

 靴下を勝手に隠してしまうおばけだ。そいつはきみの家にこっそりと住みついている。そいつはきみに外出してほしくない。さびしいから。ずっと家にいてほしいから。

 そう考えると、靴下がなくなっても気が晴れるかもしれない。

   ☆

 靴下を探すことに、私たちはどれだけの時間を使っているのだろう。

 片方を手にとって、「あれ、もう片方はどこだろう」と探す。仮にその時間を三〇秒だと仮定してみよう。一日に一回は探すことになるから、一年で一万九五〇秒になる。時間に直すと、約三時間。八年で一日分となる。

 人生が八〇年だと仮定したら、一生のあいだで、ぼくらは十日間にわたって靴下を探していることになる。ちょっとした旅行よりも長い。ぼくらは「靴下探し」という旅をしている。それは船旅かもしれないし、列車で行くのかもしれない。たまたま席が隣り合ったら、こんな会話をするだろう。

「あなたはどちらへ?」

「ええ、ちょっと靴下を探しに」

「わたしもなんです。なかなか見つからなくて」

「もう四日めです。今日行く場所になかったら……」

「どうします? ひょっとして──左右違う靴下を履きますか?」

「いえ、それは……」

 ふたりは沈黙し、窓の景色だけが流れていく。ほら、もっと窓のむこうも見ないと! そこに靴下があるかもしれないよ。

   ☆

 さて、どんなものでも売り買いしてしまうのが現代の資本主義だ。

 ハーバード大学教授である政治哲学者のマイケル・サンデルは、その現状を著書『それをお金で買いますか』(早川書房)で批判した。お金を払えば刑務所のランクが上がるのは、それは正義だろうか? 炭素の排出権の売り買いは? 寄付の金額が大学受験の合否に影響するのは?

 こうした市場の流れからすれば、市場では「靴下を探す時間」も売り買いされていることだろう。

 現代人は忙しい。お金があっても、時間がない。そんなひとが「靴下を探す時間」を買う。なにせ一人分の時間を買ったら、十日間もついてくるのだ。

 買ったひとはその時間であたらしいチャレンジをしたり、友達と遊んだり、旅行をしたりするだろう。

 売ったひとはお金がもらえて、そのお金であたらしいチャレンジをしたり、友達と遊んだり、旅行をしたりするだろう。

 ウィンウィンだ。お互いに時間とお金を有効活用する。なんだかおかしな気もするけれど、ウィンウィンなんだからしょうがない。

 でも、うっかり左右の違いを気にしないひとの時間を買ってしまうとたいへんだ。せっかく買ったのに、ほとんど時間は手に入らない。だから、「このひとは靴の左右を気にするかな?」とよく観察しなきゃいけない。左右違う柄の靴下を履いていたら要注意だ。

   ☆

 靴下を最初に履いた人間は誰だったのだろうか。正確なことはわかっていないが、その歴史はかなり古いことだけはわかっている。

 「ボタン」はだれが発明したのか記録に残っていない。服のボタンだ。服飾の歴史を永遠に変えるイノベーションなのに、それがだれによってなされたのか、うっかり記録しなかった。そういったことは、人類の歴史ではたまにある。

 靴下よりもさきに、靴があったはずだ。なぜなら「靴下」という名称は、靴を前提としている。靴下がさきに生まれているとしたら、靴のほうが「靴下のうえ」というような名前になっているはずだ。「靴ひも」は「靴下のうえのひも」になる。言いにくい。ややこしい。ここにひとつの事実として、「はじめに靴ありき」というテーゼを立てることができる。

 つまり、靴下を考えた人間は、靴を履いていたことになる。

 素足で外を闊歩していた人類が、あるとき気がつく。

「痛いのでは?」

 素足で歩くと、小石などを踏んづけて足のうらが痛い。血が出るときもあるだろう。これをなんとか防ぎたい。こうして、靴が開発される。生地を厚めにして革にするといいだろう。脱げないように紐で結ぼうか。足のうらの部分はうんと固くしてやろう。ああ、これこれ。とっても便利。小石を踏んでも、痛くない!

 そして、みんな靴を履くようになってしまう。しかし、新たな問題が出てくる。

 カーペットが汚れてしまう。

 靴を履いて外出して、いろんな場所を歩いていると、当然ながら靴のうらが汚れてしまう。だから、帰ってきたときにそのままカーペットのうえを歩いてしまうと、カーペットが汚れてしまう。

 裸足なら洗えばいいけれど、靴だったら洗うのにひと苦労する。外出のたびに洗うのはたいへんだ。そこで脱ぐことになる。

 だけど、裸足で歩き回るのも躊躇してしまう。靴に慣れてしまうと、裸足がなんだか恥ずかしい。ぼくらは一度なにかで覆ってしまうと、それを改めて見せることに恥ずかしさを覚えてしまう。なんでだろう? 人間って、そうだ。

 なにか「靴」と「裸足」の中間にあたるものは作れないだろうか。いろんなひとが頭をひねって、やがて「靴下」が発明される。

 靴下をはじめて履いたひとは、感動したことだろう。ああ、ふわふわしている。まるで雲に足を突っ込んでいるかのようだ! この靴下に柄をつけたらなんかファッションのワンポイントにもなるし。うん、すごくいい。

   ☆

 しかし、ここでアンチテーゼも存在する。

 カーペットが早く汚れたほうが、買い替えも早くなるので商売として得するだろうというアンチテーゼだ。

 おそらくこういった勢力もいたはずだ。そういったひとたちは靴下を使うことを妨害してくるだろう。ネガティブキャンペーンだ。

「靴下を履くのは軟弱だ」

「靴下を履いていると、病気になりやすい」

「この前の事件の犯人は、靴下を履いていた」

「吸血鬼は靴下が大好きで、靴下のある家を襲う」

 もちろんすべてデタラメなのだけど、アンチテーゼ側はがんばる。カーペットを踏んづけてもらいたいから。でも、事態は複雑になる。靴下を売るカーペット屋が登場するのだ。自分たちが持っている生地を使って、靴下を売り出すのだ。カーペットの買い替えを早くするのと、カーペットを長持ちさせて靴下も売るのとではどっちが儲かるのだろう? 市場はたまにこういった難問を用意する。

 考えているうちに頭が痛くなる。ちょっと休憩して、コーヒーでも飲もうか。ああ、キッチンの床が冷たい。フローリングだから。そうだ、靴下を履こう。

   ☆

 ぼくらに履かれた靴下は、洗濯機に放り込まれてしまう。やがて洗濯機がまわり、ふたりは離ればなれになってしまう。だけど、ふたりは再び出会う。靴下の左右として。ぼくらは同じ柄の靴下を履きたいから。ふたりはまたいっしょになる。そうした奇跡の再会が、ぼくらの足もとでは毎日起こっている。

夢でする長電話

夢でする長電話

『もしも文豪がカップ焼きそばの説明文を書いたら』『ニャタレー夫人の恋人』などの菊池良さんによる『夢でする長電話』。

こんな内容です。

  • 靴下、探していますか?
  • カレーをシチューに変える装置
  • 犬のファッション革命
  • 防寒グッズと人類の未来
  • ほんとうのパーソナルコンピュータ

日常の疑問からスタートした、エッセイのようなショートショートのような不思議な読後感。ぜひお読みください。

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カテゴリZINE 関連タグ:zine, エッセイ, 菊池良, 試し読み, 靴下

【7/20~27】はじめてのZINEが集まるイベント「Oui,ZINE(ウイジン)」参加者募集中!(来店無料)

2024年6月27日

OuiZINE

初めてのZINEを展示・販売するイベント「Oui,ZINE(ウイジン)」を2024年7月20日(土)~7月27日(土)に開催することになりました。初陣(ういじん)ということで……。フランスに縁があるのでフランスっぽい雰囲気も出したくて……(行ったことはありません)。かつ「うんうん、いいね!」の意味も「Oui」に込めて。

DIY BOOKSで開催しているDIY ZINEスクールの生徒さんが2カ月弱で作りあげた初めての作品もここで発表されます(みなさん現在鋭意制作中です!)。

スクール参加者以外の方も、初心者はもちろんのこと、経験者でも「1号目だけ」なら参加可能です。

基本的に審査なし。

この期間はDIY BOOKSを開店するため、ZINEをご覧になりたい方、お買い上げされたい方もぜひお越しください。入場(来店)はもちろん無料です。

7月20日(土)には親子向けワークショップも

7月20日(土)13時から、親御さんとお子さんをメインの対象に、お子さんに呼びかけながらA41枚で簡単な8ページの絵本をつくるワークショップを開催します。

完成したら店内の印刷機・リソグラフの好きなお色(黒・青・赤・黄)1色で印刷して10枚ほど持ち帰っていただけます。

サンプルは下記のInstagramのリール動画を参照ください。

https://www.instagram.com/p/C8bXl9dSDRf

参加費:1,200円

定員:8名まで

応募はこちらから

※なお7月20日(土)18~20時には奈良の私設図書館

「ルチャ・リブロ」の青木真兵さんとのトークイベント「本と公共とわたし」も開催します。

こちらもどうぞ。

ご参加・ご来店をお待ちしております。

Oui,ZINE(ウイジン)開催概要

・期間:2024年7月20日(土)~7月27日(土)

・場所:DIY BOOKS

661-0043 兵庫県尼崎市武庫元町1-27-5

・来場料:無料

・出品料 1タイトル:2,000円

※ZINEスクール参加者は不要です。

※期間中店頭で販売します。

※手数料はいただきません。

・ジャンル:不問

※あまりにも差別的・公序良俗に反する・その他不適切とスタッフが判断する場合などは展示をお断りすることがあります。なにとぞご了承ください。

・サイズ:A4以下、厚さ3cm以下

・販売価格:300~3,000円

・納品部数:5~10部

・注意事項:ZINE以外のグッズ等は販売できません。

・参加方法:本ページ最下部ボタンからいけるフォームに必要事項を記入の上、お支払いをお願いいたします。

・応募締切:2024年7月7日(日)

・納品締切:2024年7月17日(水)必着

※送料はご負担をお願いいたします。

※ご納品冊数以外に、サンプルを1点お願いいたします。サンプルは返送いたしませんのでご了承ください

・搬出:展示期間終了後に着払いでお送りします。

・展示場所:スタッフが決定します。

・売上の支払い

期間終了後にまとめてお振り込みいたします。振り込み手数料は応募者負担となります。ご了承ください。

・在庫返送

サンプル1部をのぞいた残数を展示期間終了後に着払いで返送いたします。

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カテゴリZINE, お知らせ, イベント 関連タグ:ouizine, zine, お知らせ, イベント

『文集 町の本屋』あとがき

2024年6月4日

小林書店閉店の報せを受けて、店主・小林由美子さん含む12人で寄せた『文集 町の本屋』のあとがきを公開します。

※最終稿とは異なります。

あとがき

 雨あがりのように、晴れやかな気持ちで町の本屋の旅立ちにはなむけを送りたい。この文集をそういう思いで綴った。

 「まえがき」で若狭さんが書いてくださったように、この文集をまとめるきっかけは、尼崎市・立花にある小林書店さんの閉店を知ったからだ。小林書店を訪ねてお話したことがDIY BOOKSの大きな始まりだった。だから何かできないか、と考えた。

 はじめから小林書店以外も含めた「町の本屋」のエピソードをテーマにしようと思っていた。というのも、後日店主の小林由美子さんと話して「そうして良かった」と感じたのだが、小林さんは涙の別れを望んでいないからだった(どうやったって小林さんもお客さんも泣くと思うんですけど)。むしろ「よくここまでがんばった!」と、自分で祝いたいと小林さんは言う。だから、最終日には紅白の布を飾りたいと。このZINEの表紙は小林書店の青いテントにちなんだ色合いにしようと思っていたが、この一言を聞いて「赤でいこう」となった。

 誰しもにあるであろう、町の本屋の思い出。小林書店やうちのお店だけじゃなくて、全国のどこにでもあるはずの、小さなエピソード。たわいもない話かもしれない。でもそのたわいもなさは、その人の中にしかない。こうして文集にまとめなければ世に知られることがない話。少なくともあなたは読むことはなかった話。秘密。それをどうにか形にしたかった。

 「店主が売りたい本を選ぶ」「本以外の雑貨を売る」「ビブリオバトルなどイベントで人を集める」など、小林書店はある意味いまの独立系書店の先駆的取り組みをしてきた。とはいえ『仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ』(川上徹也/ポプラ社)にあるように、あるいは本書で由美子さんが書かれているように、小林書店がやってきたことは地道な、コツコツとした小さな仕事の積み重ねだ。新刊書店として大手取次との取引もずっと続いている。一方で、震災後に傘を売る取り組みを始めるなど新しい取り組みもどんどんやってきた。『キン肉マン』が大人気の時代、小さな書店にはほとんど配本されない。その時期に別の本で実績をつくることで大量に配本される実績をつくった。すべて小林書店が本と、お客さんと真摯に向き合ってきた結果だ。「特別ではない」なんて言えない。本屋をはじめて、同じことをまったくできないことが僕にはわかった。「まじめに商売をする」のがいかに難しいことか。それを続けてきた信用で、小林書店はできている。

 僕はずっと思っていた。小林書店は町の本屋の象徴だと。町の本屋にできることをほとんどやってきた。それに、全国の本にかかわる人に慕われている。

 長くなってしまったが、あえて小林書店以外も含む「町の本屋」全般をテーマにしたのはそれが理由だ。筆者によっては小林書店のことを書かれている方もいる。もちろんそれでいい。逆にそうじゃなかったとしても、どこかに小林さん夫妻の、小林書店にかかわる人たちの顔が見えてくるような気がするはずなのである。大切な本との出合いや、本屋にまつわる小さなお話が、小林書店と、それ以外の町の本屋ともリンクしていくんじゃないか。そう考えた。

 表紙を傘のような本にしたのは、もちろん小林書店で傘が売られてきたことが一つの理由だ。もう一つは、本屋が、どこか雨やどりの場所のように思えるからだ。本屋をはじめてみたら、二時間、三時間話すお客さんがよく来られる。時間帯効果(利益)を考えると非常に大変にあれではあるが、偶然聞くお話はとても面白い。一方で、自分の店がお寺や教会のように思えてくる。おこがましいけど。

 自分がお客さんとして本屋に行くときは、ただ暇だとか、進路に迷っただとか、どこか落ち着く場所を探して訪れていた気がする。僕にとっても、本屋は教会のような存在だった。

 本屋は、人生の雨やどりの場所なんだと思う。

 だからこそ、小林書店の最後の日は、終わりというよりは旅立ちのようにとらえたい。

 

 『大辞林』を引くと「本屋」にはこういう意味がある。

【本屋(ほんや)】本を売る店、また人。出版社をいうこともある。書店。書肆(しょし)。

 全国でいろんな町の本屋が試行錯誤している。大変だけど、面白い時期だ。

 僕らDIY BOOKSも原稿を書き、店内にあるリソグラフで印刷して手で製本して売る、町の中華みたいな本屋だ。本屋一本では無理だけど、やりがいはある。

 一方で、今の時代、ほとんどの人がすでに本屋になりかけているんじゃないかと思う。

 文学フリマやアートブックフェア、コミティア、コミックマーケットはいわずもがな、同人誌やZINE界隈は盛り上がっている。

 上の定義からいけば、自分でZINEをつくってイベントで手売りする人は、もれなく本屋であろう。真っ当な意味で。メルカリで本を売るために売り文句を考える人も、本屋だと思う。

 本屋は減っているけれど、町にはたくさんの本屋さんが歩いているはずなのだ。

 現「町の本屋」としてすべきことは、町にいる「本屋予備軍」に声をかけ、本屋になってもらうことだ。うちの店も、仕入れて本を売るというより、いろんな人に本をつくってもらいたくて開いた。

 だから僕は言いたい。あなたが本屋になるんだよ、と。いや、すでにあなたは本屋なので自覚してください、と。

 小林書店や、多くの町の本屋からのバトンをみんなで笑顔で受け取って、新しい本屋を続けていく。またつらくなったら、傘を閉じて本屋で雨やどりすればいい。町の本屋さんはそのときに寄り添う本を、そっと置いていてくれているはずだ。

 町の本屋さん、ありがとう。また会いましょう。


文集:町の本屋

『文集 町の本屋』

小林由美子さんと11人の町の人が書いた「町の本屋さん」のエピソード

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カテゴリZINE 関連タグ:zine, 小林書店, 町の本屋

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