小林書店が5月31日に閉店した。お昼からあった、お別れ会ならぬ「お礼の会」に伺った。
小林書店は72年続いた兵庫県尼崎市・立花の本屋だ。全国的にも有名で……詳しいことは『仕事で大切なことはすべて尼崎の小さな本屋で学んだ』やBookLinkのこちらの記事を読んでいただければと思う。
店主・小林由美子さんいわく「最終日にさみしいのは嫌だし、ずっと紅白の布を飾って振る舞い酒をして、華々しく終わりたい」ということで、今までの感謝をする「お礼の会」になったそうだ。
※『町の本屋』のあとがきも記事にしたのでよろしければこちらも。
お昼過ぎに雨が降ってくる。シャッターが開くのを末人たちが傘をさす。本だけでなく傘も売ってきた小林書店にはなんだかふさわしいのかな、と思った。
テレビの密着カメラ、新聞紙の記者さん、常連のお客さん、イベントでかかわる方たち、いろんな人が来られていた。
シャッターがあいて、由美子さんと昌弘さんの姿が見える。もう由美子さんは泣いている。なんとも言えない気持ちになった。閉店の報せを聞いたときは僕も思わず泣いてしまったけれど、今は由美子さんが望むように「よくぞここまで続けてこられましたね(というのは大変おこがましいけれど)、お疲れ様でした」という気持ちが強かった。
小林さんご家族や協力されるみなさんがおいしいお酒やちくわを振る舞ってくれた。お二人に花束を渡して僕は帰らなければいけなかったけれど、まだまだお話したいことはたくさんあった。
最後の日に、人に施すという姿勢が小林書店のすべてをあらわしていると思う。
自分の人生の終わりは映画の『ビッグ・フィッシュ』みたいに、これまでの人生のオールキャラクターが集まって棺桶に花を入れてくれたら嬉しいと思っていた。そこに今は会社という「法人」、店という人格が増えた。自分の店の終わりはどうなるだろう。そこに自分や店の在り方があらわれる。考えていくことがまた増えた。
DIY BOOKSを開く前に小林書店に伺って相談して以来、由美子さんは何度も目をかけてくださった。昌弘さんにも「本屋は儲からんしやめた方が良い」とアドバイスもいただいた。
そのあとはっきり分かったのは「本屋は本当に続けるのが難しい」ということだった。結果的に、DIY BOOKSは本来の「つくる」方の意味での本屋に集中すべく、ほとんど本を売る本屋ではなくなった。実際のところ、本業をしながらの開店となったが、本屋自体で収益を得るのがかなり難しかったのは営業形態変更の理由の一つにある。
だからこそ、小林書店が続いてきたことのすさまじさが(ひよっ子ながら)理解できる。
そして由美子さんの売る力。トーク力。
僕が新卒で入った某通信教育の会社でダイレクトメールをつくったり、雑誌の販促をしたりする仕事に就いて学んだ真理は、商品そのものじゃなくて、ベネフィットを売ること。相手に合わせて。ダイレクトメールやメルマガ、SNSだったらそれが1対nでできる。でも由美子さんはそれを1対1でとてつもない回数やってこられた。
結果的に数百部、数千部を売る。その原点には、人と本に向き合う誠実さがある。
この前、「これからの町の本屋」というイベントで由美子さんや他の本屋さんと話させてもらったとき、いかに僕が本を売るのがうまくないかという話になった。由美子さんは「おいおい教えていく」と言ってくださったが、そろそろ真剣に聞きに行かなければいけない。さらに本屋として、人間として身の振り方をいまめちゃくちゃ考えてるんです、と。
正直なところ、僕はあの日以来結構凹んでいる。ウソをつけない。分かっていたことだけれど、小林書店が開かないというのはさみしい。でも遊びにいこうと思う。
小林由美子さん、小林昌弘さん、ご家族のみなさん、かかわってきたみなさま、本当にお疲れ様でした。
また会いましょう。
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小林由美子さんと11人の町の人が書いた「町の本屋さん」のエピソード