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Home / Archives for diybooks_tenshu

diybooks_tenshu

【9月】久しぶりにお店を開けます。

2024年9月9日

9/8の文学フリマ大阪にお越しいただいた方はありがとうございました! まだ興奮冷めやらぬ中ですが、感想はまた。

さて、久しぶりにお店を開けます。

こんにちは、DIY BOOKS店主・平田です。

今年の10月にDIY BOOKSは1周年を迎えますが……今年の5月から本屋としてはほとんど閉店していましたのでナンジャコレというところではあります。

何度かお会いしたことのある方やイベントなどではよくお話しするのですが、どうも私どもは本を売る本屋ではなかったようなのです。変な話ですが。

「本屋」には「本を売る」以外に「本をつくる」という意味もあるんですね。辞書を引くと。
「本の町」神保町の三省堂にしても岩波書店にしても、昔の本屋さんは古本屋さんからスタートしていたり、本屋自体が版元だったりしたそうです。

DIY BOOKSは本を売るのはちょびっとしかしていないのですが、本をつくることはけっこうがんばっています。さらにいえば、新しい本屋、本をつくる人を増やすべくDIY ZINEスクールを開催し続けております。

……そういう意味では、いちおう本屋と名乗ってもいいのではなんて思うわけです。

前置きが長くなりました。

久しぶりにスクール生以外のみなさまにもお店を開けます。

営業日

お手数ですがこちらのリンクからご確認ください。
https://diybooks.jp/calendar/
といいつつ、テキストでも書くと
・9/12(木)
・9/13(金)
・9/17(月)
・9/19(木)
・9/21(土)←珍しい土曜日営業です
・9/27(金)

※それぞれ13~17時営業です。

1.本を売り切りたいのでぜひお買い上げください
「本を売り切りたい」ととある方にお話ししたら、変な顔をされました。本屋が本を売り切りたい、ってのは変だと。
DIY BOOKSの理想としては、このお店でできたZINEがずらっと並ぶことです。
現状、古書や新刊、いろいろな方のZINEが混ざっておりますが古書や新刊をなるべくたくさん売ってスペースを開けたいなと思っています。勝手に。

もちろんZINEスクール生などのZINEもお買い上げいただけますので、この機会にぜひ!

2.久しぶりに「書く日」をやります

2階で集中してみんなで書く、「書く日」のイベントを上で行います。
原稿やその他、集中できると好評です。

↓ご予約はこちらからどうぞ。日付を選んでご購入ください。
https://diy-books.square.site/product/kaku-hi-2024/382

3.編集について30分~相談もできます

↓1階で相談できます。ご予約はこちらから。
school.diybooks.jp/p/730af7-post-intake

編集者・ライターの店主に原稿のこと、企画のこと、CanvaやInDesignの使い方、その他何でもご相談ください。SEOや検索のやり方、chatGPTの使い方、そういったことでもお力添えできます。

4.コーヒーも飲めます

9/12(木)、17(火)、19(木)
ガサキベースでもコーヒーを淹れられていた、ナカモトショウヘイさんにも来ていただきます。
ドリンクのサービスもあるということです。

また10月以降も開店日を設けていきたいと思います。

もちろん旧リソグラフ会員のみなさまはぜひ印刷しにお越しください。

あなたのご来店をお待ちしております。

カテゴリお知らせ

何度も話して定番化した話はどこか「ウソ」になる

2024年8月15日

UnsplashのKen Whytockが撮影した写真

言葉にも鮮度がある。賞味期限がある。そして、言葉にできないことのほうが大半である。日々書いているとつい忘れてしまうが、大事なことだ。

「何度もインタビューを受けていると、言っていることが本当かウソか分からなくなる」

あるインタビュイーに言われたことがある。ニュアンスで書いているので、実際は違う言葉だったかもしれない。ただ要旨としては、自分の作品が話題になり取材を受けることが増えたが、同じような質問を受けて答えるたびになんだか答えがテンプレート化していって、本当に表現したいことからずれているような気がする……ということだったように思う。

『文学としてのドラゴンクエスト』を出版されたあと、著者のさやわかさんもイベントで同じようなことを言われていた。ただし聞き手の立場として。『文学としてのドラゴンクエスト』は、国民的RPGといわれる『ドラゴンクエスト』の作者・堀井雄二さんの現実とフィクションのかかわりや、同郷で同時代に同じ早稲田大学のキャンパスにいた、村上春樹さんとのリンクなどを分析した本だ。確かイベントでさやわかさんが話したのは「『なんで堀井さんに直接インタビューしないんですか』って言われることがあるんだけど、本人は何度も同じ話をしているからどこかウソになっていることがあるんです」といったことを言われていた。だから、『ドラクエ』が出た当時の雑誌『ファミ通』のインタビューとか、関係者の証言とか、別の史料(資料)をあたる。その姿勢にライターとして感動した。これはインタビュアーとして自分もずっと仕事をしていて感じることだ。たとえば新作の映画のテーマや撮影の工夫を映画監督本人に聞いても、監督はプロモーション時期に何度も同じ話をするわけで、どうしてもどこかで聞いたような話になってしまう。芸人のエピソードトークや噺家の落語はやはり毎度笑わせる技術があるが、話芸を本業にしない人にはこれは難しい。かつ、聞かれて答える話は笑いが目的じゃないわけだ。その「話」の中に伝えるべき本質があるのだが、実はその大部分は言語化できない部分が多いのではないか。

堀井さんならなんでゲーム開発するようになったのか。手前味噌だが、僕ならなんで本屋をやっているのか。何度も答えているうちに、言葉にできない部分が捨象されてしまって、言葉が中心になってしまう。ところが言葉というのは現実や過去を代替して表現するものでしかないから、当然言葉にできないニュアンスは抜け落ちる。それなのに言葉が同じプログラムとして「再演」される。さやわかさんがこういった取材方法を信用していない、というのは書き手としてとても誠実だと思った。言葉にも鮮度がある。獲れたての魚のように。それに、その言葉が本当に真実をとらえているかは分からない。なのに魚は放っておけば鮮度が落ちていく(冷蔵庫に入れたって)。これは自分の体験や感情を書くときでもそうだ。真にその本質を言葉にできるかは分からない。雑誌『BRUTUS』の編集長・西田善太さんがいうように「好奇心を人任せにしない」のが大事だ。

『ドラクエ』がなぜ同時代で抜きん出たゲームタイトルになったのか。僕はなぜ本屋をやろうと思ったのか。そういう出発点となる動機を忘れないようにする。その動機(仮説といってもいい)に沿って材料を集める。信頼できるソースをあたる。意外に、自分の外に真実がある場合もある。というより、その方が多い気もする。人間は他者との関係の中で言葉をつむぐわけで、その言葉は相手との関係性や聞く姿勢によっても変わりうる。自分の本当の言葉は、他者が持っている場合も多いのである。

カテゴリ随筆 関連タグ:インタビュー, ドラクエ, 文学

【重大ニュース】5年通った喫茶店(琥珀屋)のBGMが変わった

2024年8月14日

琥珀屋コーヒー

個人的に衝撃的なニュースだったので書かざるを得ませんでした。兵庫県尼崎市・武庫之荘南口5分ぐらいにある喫茶店・琥珀屋珈琲のお話です。

琥珀屋には5年近く通っています。2階建てで、壁の漆喰が地中海っぽい雰囲気を醸し出していて、落ち着いた空間でコーヒーや軽食がいただけます。おすすめは炭焼珈琲と、たまごサンドです。サンドはミニサイズでも一人前の量が出てくる。

僕はよく仕事や休憩に利用させてもらっています。

店員のおばさまは、いつも鷹揚に接していただいています。お茶目でほんわかした雰囲気の方です。マスターはほとんどお話したことはないですが、ダンディなイメージ。あとはお若い男性や女性の店員さんがおられます。

ただ1点だけ個人的に気になる点がありました。それが音楽。BGMがなんというか、お店や店員の方の雰囲気に合っていない気がしたのです。

BOSEのスピーカーから流れるのは、イギリスかアメリカの低音やや強めのエイトビート、ダンスナンバー。「あのおばさま、実はこういう曲が好きなんだろうか?」とずっと思っていました。

ところがここ最近数回行ってみると、BGMがカントリー調になっていたのです。断然こちらの方が空間に合うし、仕事や食事にも集中できる。

お会計のときに思わずおばさまに、

「BGMの雰囲気が変わったみたいなんですけど、何かきっかけがあったんですか?」

と聞くと、

「いえ、USENの機械いじってしまったら変わったみたいなんですよね。前の方が良かったですか」

と返ってきたので、

「今の方がお店に合ってますよ」

とお伝えしました。

僕は5年近くあのBGMを聞いていたわけで、琥珀屋の世界観があれも一部含んでできあがっていました。でもそこに実は店員さんはこだわりはなかった。

というより、琥珀屋のおばさまの、そのぐらい柔軟な感じが僕は好きなのかもしれない。そう思いました。

最近琥珀屋に行くと、ずっとカントリー調の曲が流れています。そのたびにニヤリとしてしまいます。

カテゴリ随筆 関連タグ:コーヒー, 喫茶店

餃子の王将と美容院と、自信について。

2024年8月13日

餃子の王将

先日、散髪に行ってきました。土日に予定が入ることが多いので、最近は平日の仕事の合間を見つけて行きます。そのたびに「今日はお休みですか?」なんて聞かれて、適当に「ええ、まあ」と返すんです。「実は自分ひとりで会社をやっているんです」とか「自営業なんですよ」とか答えた方がいいのかなと思ったりもします。

昔から床屋さんや美容院であまり会話をしたくないというか、あまり素性を知られたくない気持ちがあって。あと、どうしても「僕みたいな者が美容院に行ってすみません」というような恥ずかしさもあります。そういった理由で、あまり深く話さないようにしています。


話がそれましたが、僕がよく行く美容院は30分でカットしてくれます。お客さんも多くて混んでいますが、みなさん腕は確かです。

その後お腹が空いてしまったので、餃子の王将に行きました。私の最寄り駅の「餃子の王将」武庫之荘店は、店員の方がすごくテキパキしていて良いお店です。ほかの店舗に行ったとき、料理が出てくるのが遅かったり、連携が取れていないなと感じたり、料理が冷めていたりして少しがっかりしたことがありました。武庫之荘店はすごくスピーディで、料理もアツアツで出てくるんですよね。私は中華セットやレバニラ、回鍋肉や餃子を組み合わせて食べるのが好きなんです。

以前、餃子の王将が最近業績好調だというニュースを見ました。その分析として、AIや自動化の時代にあって、人間が手作りでシンプルに提供していることが評価されている、という話がありました。それはその通りだろうなと思います。料理が速く出てきて美味しいですし、目の前で調理しているのが見えるのも魅力的です。

定期的に「フェア」のセットをやるのは、もちろん売り上げを上げるためでもあるでしょうが、作る量が増えることでスタッフのスピードや腕前が上がる効果がある、と聞いたことがあります。

餃子の王将に限らず、天下一品など同じチェーン店でもお店によって味が違うことがあります。忙しいお店は美味しい気がします。もしくは忙しくて腕前が良くなってうまくなって結果繁盛している……ということなのかもしれません。

先ほどのフェアの話のように、たくさん作ることで腕が上がる、というのはある程度どの業界でも共通する部分がありそうです。

私の通っている美容院は若いスタッフの方でも、たくさんのお客さんの髪をスピーディーにカットしているからか、経験値が高く、上手な方が多いと感じます。もちろん、席数や技術によって必ずしも比例するわけではないと思いますが、やはり数をこなすというのはどの世界でも大事なことだなと改めて思いました。

昔働いていた会社で、「平田は成功体験がないもんな」と言われて、すごく落ち込んだことがあります。実際、当時は成功体験がありませんでした。その言葉が10年以上、呪いのように心に残っていました。だいぶ後になってから成功体験らしきものができて、ライターや編集者、ディレクターとして独立し、法人化もできました。もちろんどこかに成功体験といえるものはあったのかもしれませんが、自信が出てきたのはやっぱり数をこなしたからだと感じています。

書いた記事の数が500本以上になり、5000記事ほど編集してきました。その経験が、自分のスピードを上げてくれたんだと思います。もちろんスピードだけが重要ではありませんが、最近40代になり、衰えを感じることも増えてきました。スピードは下がる一方ですが、それでもやらなければ生きていけないので、やるしかないです。その限られたリソースと集中力の中でなんとかなるのは、自分が数をこなしてきた経験からにじみ出るもののように思っています。

仕事の質が担保できないと仕事にならないので、そういう意味で数をこなすことの大切さを実感しています。

これからも、ある程度の数をこなしていかなければならないと感じています。仕事のご相談があれば、どうぞお気軽にお声掛けください。

カテゴリ随筆 関連タグ:気づき, 随筆, 餃子, 餃子の王将

アイデアを形にするには、まずダーッと書く!

2024年8月5日

原稿のライティングやZINEづくりで、僕は共通するやり方があると思っています。これはブレインストーミングに非常に似ています。まずは批判を挟まずに、自分の頭の中にあるイメージやアイデアをダーッと書き出すことが重要です。

アイデアを出す方法

マインドマップや箇条書き

アイデアを出す方法はいくつかありますが、個人的には箇条書きをおすすめします。マインドマップでも良いのですが、箇条書きの方が後で整理しやすいです。箇条書きにすることで、後から順番を変えたり、不必要なものを省いたりするのが簡単になります。

論理構造を考える

文章や本の構造はHTMLやマークダウン形式に似ています。見出しがあり、その中に内容があるという形です。この形式に沿ってアイデアを箇条書きにすることで、自然と論理的な構造ができあがります。

ダーッと書いて整理する

書き出す

まずは思いついたことを全て書き出します。この段階では、ブレインストーミングのように批判や編集をせずにどんどんアイデアを出すことが大切です。

整理する

次に、その書き出したアイデアを整理します。いらないものを省いたり、順番を変えたり、追加が必要なところには内容を足します。ファクトが必要なものには★印をつけておくと、後で調べやすくなります。

空白を埋める

今の時点で埋められないものは【】や●●などの記号を使って空白にしておきます。これにより、後でその部分に必要な情報を埋めることができます。この方法はライター・作家の菊池良さんが使っていた方法で、僕も知ってから真似しています。

形にする

束見本や台割

ダーッと書き出したアイデアを元に、束見本(つかみほん)や台割を作成します。この段階では、まだ粗くて構いません。詳細な部分は後で詰めていけば良いのです。

まずは考えすぎにダーッとアイデアを出し、後から整理して形にすることで、より良い作品を作り上げることができます。ぜひ参考にしてみてください!

カテゴリ書き方 関連タグ:アイデア, 書き方

菊池良『夢でする長電話』より「靴下、探していますか?」を無料公開

2024年7月6日

『もしも文豪がカップ焼きそばの説明文を書いたら』『ニャタレー夫人の恋人』などの菊池良さんによる『夢でする長電話』。

「犬のファッション革命」「ほんとうのパーソナルコンピュータ」「カレーをシチューに変える装置」など、日常の気づきから始まるアイデアの連鎖。エッセイでもあり、ショート・ショートでもある不思議で心地よい読後感の作品です。

ぜひ独特の読み味を味わっていただきたく、ここでは「靴下、探していますか?」を全文公開します。気に入ったらぜひ購入ください!


「靴下、探していますか?」

 靴下を手にとって、片足に通したあとにはっと気がつく。

 靴下がない。片方だけない。

 なぜか靴下はたいていペアになっている。だから、左右揃えて履かないと、なんだか居心地が悪い。けれども、靴下自体は左右分離している。そのことによって、この問題が起きる。

 靴下がないと、すこし焦る。だけど、たいていはちょっと探すとすぐ見つかる。ほっとする。ああ、なくしたわけじゃなかったんだ。靴下は、存在していた。

 どんな人間も、きっと靴下を探している。片方だけ履いた状態で。素足をすこしだけ上げてバランスをとりながら、「あれ? ひょっとして靴下がない?」。ちょっとバランスを崩して、素足が床について「冷たっ」となる。

 かつて好況に湧くニューヨークの光と闇を書いた『華麗なるギャツビー』。その作者であるスコット・フィッツジェラルドにもそんな瞬間があったはず。きっと。

 ぼくらには等しく靴下の片方だけがない。世界中の、あらゆる場所で。

   ☆

 「探す」という行為は片方がないときだけに生まれる。片方の靴下を手にとって、もう片方を探すのだ。両方ないときは、探さない。なくなっていることにすら気づかない。静かになくなり、記憶からもなくなる。この事実にはちょっとゾクッとする。両方ないから探されていないものが、この世界にはいっぱいあるんじゃないだろうか? なくなってしまったことばが、だれにもつぶやかれないように。

 かつてぼくらは宇宙の一部だった。それがエネルギーの爆発によって分かれて、散り散りになってしまった。生きものがパートナーを求めるのは、かつてひとつだったときの名残だとか。靴下も、かつてはひとつだったのかもしれない。

   ☆

 たいていはすこし探したら見つかるが、いくら探しても見つからないときもある。これは困ったことだ。選択肢はふたつある。

①片足だけ、別の靴下にする

②すでに履いた靴下を脱いで、別の靴下にする

 あなたならどうする?

 だが、ここにはひとつのパラドックスがある。①を選べる勇気あるものは、最初から靴下を探さないのではないか。適当に手を伸ばして、最初に掴んだ靴下を履くだけじゃないのか。そうなると、そもそも「探す」という発想がなくなる。

 ①を選ぶということは、左右違う柄になる。なんだか落ち着かない。これに落ち着けるひとは、靴下を探さない。たまに左右同じ靴下になると、「今日はラッキーデイだな」と思うくらいかもしれない。

 道行くひとはみんな左右同じ靴下を履いている。そのなかで、ひとりだけ「ラッキーデイ」のひとがいる。左右が同じだから。すこしだけ浮足立っているかもしれない。スキップをするかのように。

   ☆

 探しても見つからない場合もある。あるはずの場所をいくら探しても見つからない。なくしてしまったのだ。

 靴下はいったいどこへ消えたのだろうか。ものがなくなるなんてことはない。見つからないだけで、絶対にどこかにある。

 だれかが持っていってしまったのかもしれない。いったいだれが?

 靴下を勝手に隠してしまうおばけだ。そいつはきみの家にこっそりと住みついている。そいつはきみに外出してほしくない。さびしいから。ずっと家にいてほしいから。

 そう考えると、靴下がなくなっても気が晴れるかもしれない。

   ☆

 靴下を探すことに、私たちはどれだけの時間を使っているのだろう。

 片方を手にとって、「あれ、もう片方はどこだろう」と探す。仮にその時間を三〇秒だと仮定してみよう。一日に一回は探すことになるから、一年で一万九五〇秒になる。時間に直すと、約三時間。八年で一日分となる。

 人生が八〇年だと仮定したら、一生のあいだで、ぼくらは十日間にわたって靴下を探していることになる。ちょっとした旅行よりも長い。ぼくらは「靴下探し」という旅をしている。それは船旅かもしれないし、列車で行くのかもしれない。たまたま席が隣り合ったら、こんな会話をするだろう。

「あなたはどちらへ?」

「ええ、ちょっと靴下を探しに」

「わたしもなんです。なかなか見つからなくて」

「もう四日めです。今日行く場所になかったら……」

「どうします? ひょっとして──左右違う靴下を履きますか?」

「いえ、それは……」

 ふたりは沈黙し、窓の景色だけが流れていく。ほら、もっと窓のむこうも見ないと! そこに靴下があるかもしれないよ。

   ☆

 さて、どんなものでも売り買いしてしまうのが現代の資本主義だ。

 ハーバード大学教授である政治哲学者のマイケル・サンデルは、その現状を著書『それをお金で買いますか』(早川書房)で批判した。お金を払えば刑務所のランクが上がるのは、それは正義だろうか? 炭素の排出権の売り買いは? 寄付の金額が大学受験の合否に影響するのは?

 こうした市場の流れからすれば、市場では「靴下を探す時間」も売り買いされていることだろう。

 現代人は忙しい。お金があっても、時間がない。そんなひとが「靴下を探す時間」を買う。なにせ一人分の時間を買ったら、十日間もついてくるのだ。

 買ったひとはその時間であたらしいチャレンジをしたり、友達と遊んだり、旅行をしたりするだろう。

 売ったひとはお金がもらえて、そのお金であたらしいチャレンジをしたり、友達と遊んだり、旅行をしたりするだろう。

 ウィンウィンだ。お互いに時間とお金を有効活用する。なんだかおかしな気もするけれど、ウィンウィンなんだからしょうがない。

 でも、うっかり左右の違いを気にしないひとの時間を買ってしまうとたいへんだ。せっかく買ったのに、ほとんど時間は手に入らない。だから、「このひとは靴の左右を気にするかな?」とよく観察しなきゃいけない。左右違う柄の靴下を履いていたら要注意だ。

   ☆

 靴下を最初に履いた人間は誰だったのだろうか。正確なことはわかっていないが、その歴史はかなり古いことだけはわかっている。

 「ボタン」はだれが発明したのか記録に残っていない。服のボタンだ。服飾の歴史を永遠に変えるイノベーションなのに、それがだれによってなされたのか、うっかり記録しなかった。そういったことは、人類の歴史ではたまにある。

 靴下よりもさきに、靴があったはずだ。なぜなら「靴下」という名称は、靴を前提としている。靴下がさきに生まれているとしたら、靴のほうが「靴下のうえ」というような名前になっているはずだ。「靴ひも」は「靴下のうえのひも」になる。言いにくい。ややこしい。ここにひとつの事実として、「はじめに靴ありき」というテーゼを立てることができる。

 つまり、靴下を考えた人間は、靴を履いていたことになる。

 素足で外を闊歩していた人類が、あるとき気がつく。

「痛いのでは?」

 素足で歩くと、小石などを踏んづけて足のうらが痛い。血が出るときもあるだろう。これをなんとか防ぎたい。こうして、靴が開発される。生地を厚めにして革にするといいだろう。脱げないように紐で結ぼうか。足のうらの部分はうんと固くしてやろう。ああ、これこれ。とっても便利。小石を踏んでも、痛くない!

 そして、みんな靴を履くようになってしまう。しかし、新たな問題が出てくる。

 カーペットが汚れてしまう。

 靴を履いて外出して、いろんな場所を歩いていると、当然ながら靴のうらが汚れてしまう。だから、帰ってきたときにそのままカーペットのうえを歩いてしまうと、カーペットが汚れてしまう。

 裸足なら洗えばいいけれど、靴だったら洗うのにひと苦労する。外出のたびに洗うのはたいへんだ。そこで脱ぐことになる。

 だけど、裸足で歩き回るのも躊躇してしまう。靴に慣れてしまうと、裸足がなんだか恥ずかしい。ぼくらは一度なにかで覆ってしまうと、それを改めて見せることに恥ずかしさを覚えてしまう。なんでだろう? 人間って、そうだ。

 なにか「靴」と「裸足」の中間にあたるものは作れないだろうか。いろんなひとが頭をひねって、やがて「靴下」が発明される。

 靴下をはじめて履いたひとは、感動したことだろう。ああ、ふわふわしている。まるで雲に足を突っ込んでいるかのようだ! この靴下に柄をつけたらなんかファッションのワンポイントにもなるし。うん、すごくいい。

   ☆

 しかし、ここでアンチテーゼも存在する。

 カーペットが早く汚れたほうが、買い替えも早くなるので商売として得するだろうというアンチテーゼだ。

 おそらくこういった勢力もいたはずだ。そういったひとたちは靴下を使うことを妨害してくるだろう。ネガティブキャンペーンだ。

「靴下を履くのは軟弱だ」

「靴下を履いていると、病気になりやすい」

「この前の事件の犯人は、靴下を履いていた」

「吸血鬼は靴下が大好きで、靴下のある家を襲う」

 もちろんすべてデタラメなのだけど、アンチテーゼ側はがんばる。カーペットを踏んづけてもらいたいから。でも、事態は複雑になる。靴下を売るカーペット屋が登場するのだ。自分たちが持っている生地を使って、靴下を売り出すのだ。カーペットの買い替えを早くするのと、カーペットを長持ちさせて靴下も売るのとではどっちが儲かるのだろう? 市場はたまにこういった難問を用意する。

 考えているうちに頭が痛くなる。ちょっと休憩して、コーヒーでも飲もうか。ああ、キッチンの床が冷たい。フローリングだから。そうだ、靴下を履こう。

   ☆

 ぼくらに履かれた靴下は、洗濯機に放り込まれてしまう。やがて洗濯機がまわり、ふたりは離ればなれになってしまう。だけど、ふたりは再び出会う。靴下の左右として。ぼくらは同じ柄の靴下を履きたいから。ふたりはまたいっしょになる。そうした奇跡の再会が、ぼくらの足もとでは毎日起こっている。

夢でする長電話

夢でする長電話

『もしも文豪がカップ焼きそばの説明文を書いたら』『ニャタレー夫人の恋人』などの菊池良さんによる『夢でする長電話』。

こんな内容です。

  • 靴下、探していますか?
  • カレーをシチューに変える装置
  • 犬のファッション革命
  • 防寒グッズと人類の未来
  • ほんとうのパーソナルコンピュータ

日常の疑問からスタートした、エッセイのようなショートショートのような不思議な読後感。ぜひお読みください。

購入する

カテゴリZINE 関連タグ:zine, エッセイ, 菊池良, 試し読み, 靴下

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